こんにちは、あむすです。
この記事はSpeedcubing Advent Calender 2023の5日目の記事です。
昨日:うえしゅうさんの「WCA Live botについて」
明日:悪牛さんの「楽に始めるオーディオペア【簡易ダブルナンバリングの紹介】」
今回はFMC(最少手数競技)初心者向けの解法「あむす式DR」を考案したのでそれを紹介、検討していきたいと思います。この記事を読むにあたり必要な知識は回転記号と簡易CFOPの十字OLLだけですので、FMCを全くやったことがない方も読み進められるはずです。そして「できるかも」と思ったら是非やってみてほしいです!
解説の後にこの解法についての手数や有用性についての検討があります。
この記事では1つのお題スクランブルをあむす式にそって完成させていきます。ぜひお手元にキューブを1つご用意して頂き、回しながら読み進めて頂くと分かりやすいかと思います!
概要
解法の特徴
現在、FMCの解法の主流はDR(Domino Reduction)という解法ですが、これは初心者がいきなり学ぶにはハードルが高い解法だと思っています。実際にXでもDRを学ぼうとして挫折している人を多く見かけました。しかし、一般に初心者向けと考えられているブロックビルディング(BB)という解法は、DRではほとんど使わないコーナーインサートやELLなどによるスケルトン作りを習得する必要があり、DRとは解法の流れが異なりすぎています。そこで、DRを初心者向けに簡単にした解法があればDRへの橋渡しとして良いのではないかと考え、「あむす式簡易DR」を考案しました。
あむす式の特徴として、(専門用語が出ますが初心者の方は気にせず読み飛ばしてください)
・新たに覚えなければいけない手順がない
・DRを作る過程が通常のDRより簡単
・HTRがDRの作り方と同じで簡単
・100%の確率でgood corner DR
・↑のためDRのコーナーケースやHyper Parity、HTR subsetも覚えなくてよい
・fake HTRに遭遇しない
・NISSもインサートも必要なく、上達に合わせて取り入れられる
という感じで普通のDRよりも習得するのがかなり簡単だと考えられます。
解法の流れ
1. EO(エッジの向きを揃える)
2. 4コーナー(4つのコーナーを揃える)
3. 8コーナー(残りのコーナーも揃える)
4. DR(UD面が全て白or黄になるようにする)
5. HTR(LR面かFB面もDRにする)
6. 180度回転で完成
2,3の先にコーナーを揃える部分があむす式の根幹になっており、逆にそれ以外は普通のDRなので説明する必要が無いかもしれませんが、初心者向け記事ということで、全ステップ解説します。
解法解説
U面白、F面緑で画面下部にあるお題のスクランブルを回してください。これをあむす式で揃えていきます。
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お題スクランブル |
0.初心者の方へ
最初は回転記号をメモするだけでも大変だと思いますが、FMCerは回転記号を面の色と対応させています。赤を反時計回りに回したらR'という感じです。これでくるくる持ち替えられます。
また、各ステップの最後に補足がありますが、初心者の方は最初はそこまで気にせず、読み飛ばしてしまっても大丈夫です。
1. EO
EOは「エッジの向き」のことで、このステップでは全てのエッジの向きを正しくすることが目標です。以下正しいエッジを〇、反転しているエッジを✕と表現します。
白を上、緑を手前にして持ってください。
①見えているべきステッカーの優先順位は
白黄>緑青>赤橙
(一般化するとUD面色>FB面色>LR面色)
②U/D面の8個は上下から、中段の4個は前後から見たときに、
③ちゃんと優先順位を守っていれば〇、そうでなければ✕。
今回のお題を見て〇✕を判断してみましょう。
まずU面を上から見てみると、
図の上の黄橙エッジは黄が見えていて、優先順位は橙よりも黄の方が高いので〇。左の赤緑エッジは赤が見えていて、優先順位は緑の方が高いので✕。という感じで図のように〇✕をつけられます。D面も下から見て同様に判断できます。
次はF面を手前から見ます。
上と下のエッジはU/D面で判断したので、ここで判断しなければいけないのは印のついている中段の2個だけです。どちらも優先順位を守っていないので✕ですね。
残りのエッジも判断してみてください。✕は全部で図にある6個、それ以外は〇です。
そして肝心のEOの揃え方ですが、EOはFまたはBの90度回転を行うと、その面の〇は✕に、✕は〇に変わります。この性質を用いて全てのエッジを〇にします。最終的に✕の数を4つにして、その4つをF面もしくはB面に集めてFもしくはBを実行することでEOが揃います。
文章では分かりにくいので実際に今回のお題でやってみましょう。
まずF面に✕が4つあるので、FまたはF'を回すとF面にあるエッジがすべて〇になります。今回はF'を回してください。
すると✕は残り2つになりますが、先程述べたように最終的には✕は4つにする必要があります。今、下の図のようにBまたはB'を回すとB面には1つあった✕が〇になり、3つあった〇が✕に変わることが分かるので、合計4つになります。今回はB'を回してください。
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B面から見た図 |
あとは U で✕をB面に4つ集めて BまたはB' を回せば全てのエッジが〇になり、完了です!今回はBを回してください。
以上をまとめると
の4手です。
()内の左側にそのステップでの手数、右側にこれまでの累計手数を書く慣習があります。今回は1ステップ目なので左も右も4と書きます。
補足
EOは3種類あり、「何色を手前/奥に持つか」で決まります。上でやったのは緑/青軸のEOで、他に赤/橙軸と白/黄軸のEOもあります。赤/橙軸なら上に白、手前に赤を持ち優先順位を白黄>赤橙>青緑に変えて判断します。
また、軸は手前/奥の面の色によって決まるので、上の面は何でも良いです。例えば手前に緑、上に赤で持ってEOを判断したとしても、優先順位は赤橙>緑青>白黄に変わりますが、〇✕の結果は手前が緑、上が白の時と同じになります。
また、EO手順は無数にありますが、5手以内を目安に探し、全ての軸を合わせて初めは5個くらい見つけられれば十分かと思います。慣れると何十個と見つけられるようになります。
2. 4コーナー
目指す形は完全1面のコーナーだけの状態です。
特に手順などもないので先程のお題の続きでやってみます。ただしEOが崩れるのでF/Bの90度回転をしないように注意しましょう。
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EO終了時点 |
R面に橙コーナーのペアがありますね。実は橙であるL面ではなく反対のR面に作ってもいいので、今回はR面に橙のコーナーを集めます。
L Uで3つ目のコーナーを入れ、
R L U' L Uで4つ目のコーナーを入れます。
まとめると以下のようになります。
F' B' U B // EO (4/4)
L U R L U' L U // 4corner (7/11)
このステップで手数をなるべくかけないために、色々なEOを試して最初からコーナーがペアになっているものを選ぶといいと思います。
3. 8コーナー
コーナーが完成された状態を目指します。
ここで最後まで完璧に揃える必要はなく、U2,R2などの180度回転だけで揃えられる形なら完成とみなし、完全に揃えきらずに終わって良いです。
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揃えきらなくていい例
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では先程の続きを見ていきましょう。
とはいえこのステップは単純に十字OLLを回してPLLスキップすることを祈るだけです(笑)
コーナーだけなので結構な確率でスキップしますが、いくつか試してどうしても出会えない場合はコーナーPLLを回しましょう。
CLLを覚えている方は使うと確実ですね。ただ手数的にはやはりPLLスキップを引きたいところです。
赤コーナーを見ると、今回はSuneです。
コーナーPLLは最終的に全てエッジの向きを変えないので、手順の中にF,Bの90度回転が含まれていても気にしなくて良いです。
F' B' U B // EO (4/4)
L U R L U' L U // 4 corners (7/11)
B L B' L B L2 B' // 8 corners (7/18)
PLLも揃ったのでコーナー完成です。
補足
十字OLLのやり方を工夫して、この次のDRのためにエッジの位置を変えることが出来ます。
例えば、上の例でSuneの代わりにAnti-Suneの左右対称手順を回してもコーナーは同じですが、エッジの位置は変わります。
また、「揃えきらなくていい例」の図を最初から目指すのもありです。つまり、4コーナーの時点で、最初からコーナーが対角交換された形や、白コーナーペア+黄コーナーペアを作り、8コーナーの時にその4コーナーに対応した形を作るということです。
4. DR
さあやっとDRまで来ました。DRはU/D面のステッカーを全て白黄にした状態です(もちろんキューブは対称なのでR/L面を赤橙にするなどもOK)。U面とD面の間の真ん中の段をE層と呼びます。(R/L面で作った場合も真ん中の段をE層と言います。)
DRを作るには、E層にあるDR色エッジ(U/D面に作るなら白黄を含むエッジ)が1個、2個、3個、4個のパターンがありますが、まずは1個、2個のパターンでできるようになるといいと思います。お題の続きを進める前に、それぞれの作り方を解説します。
2個のパターン
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L U2 D2 R |
2個の方が簡単です。DRを作る面のステッカーを全て黄色、E層にあるべきエッジを紫にしています。図の1番左のようにU/D面とE層のエッジの位置を調整します。その時にU/D面は自由に動かして良いですが、他の面(R, L, F, B)は180度回転だけです。
図の1番左の状態になったら、まずL(またはL')で上下にバーを作ります。それらをU2 D2でR列のエッジにくっつけて、R(またはR')でDRになります。
1個のパターン
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R' U2 F2 U2 R |
1個の場合も先程と同じルール(U/D面は自由、他は180度回転だけ)を使って図の1番左のように調整します
図の1番左の状態から、まずR'を回します。このとき、RだとDR色エッジがF面に2つになってしまうのでダメです。
次にR列の上下にバーが出来ているので、U2(かUw2)で一方をL列に持っていきます。ここからF2 U2とすることでR列にバーとエッジが集まり、R(またはR')でDRになります。
お題の続き
では実際に今回のお題の続きでDRを作ります。コーナーを揃える時には橙→赤と作りましたが、結果的に白黄のコーナーも揃っているので白黄でDRを作ることもでき、こちらの方が既にエッジの位置が先程やった「2個のパターン」になっているので短いです。
先程の通りL U2 D2 R を回して
U/D面が全て白黄になってDRができました。
F' B' U B // EO (4/4)
L U R L U' L U // 4 corners (7/11)
B L B' L B L2 B' // 8 corners (7/18)
L D2 U2 R // DR (4/22)
DR後の動きの制限は、エッジの位置をセットした時と同じですがDR面(U,D)は自由に動かしてよく、それ以外の面(R,L,F,B)は180度回転のみです。
また、DR後はF/BでEOをやった場合でもR/LのEOも揃うので、y持ち替えもできます。
補足(3個、4個のパターン)
3個、4個のパターンは手数が長くなりますが、知っておくと8コーナーまでいい感じだった時に捨てなくて済みます。特にこの次のHTRでよく出てきます。
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3個のパターン R F2 U2 F2 U2 D2 L |
3個は上図のようにエッジの位置を調節して、R F2 U2 F2 U2 D2 LでDRにできます。2箇所のF2をB2に変えてもできます。
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4個のパターン R U2 D2 F2 B2 R |
4個は上図のようにしてR U2 D2 F2 B2 RでDRになります。最初のRはR'でも良いです。
これらはそれぞれ逆再生手順も使えます。
5. HTR
HTRはHalf Turn Reductionの略で、HTRを作った後は180度回転のみで解くことが出来るようになります。HTRは2方向DRとも呼ばれます。つまりU/D面だけでなく、F/B面でもDRを作ればいいのです。
DRを作った時の影響でコーナーが崩れていることがあると思いますが、その場合も簡単にまた揃えられる状態のはずです。(DR前と同じく、180度回転で揃う形であれば完全に揃えなくてもOKです。)
では実際にお題の続きでやってみましょう。図のような向きで持つといいと思います。
コーナーはR2で揃うので、既に180度回転のみで揃う形なのでOKです。
F/B面にDRを作ります。(同時にR/L面もDRになるのでR/L面に作ろうと考えても同じです。)
DRのところでやった2個のパターンの図の1番左の形にセットします。この時に使える動きは全面180度回転のみです。
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2個のパターン(再掲) |
D2 L2 でセットできます(下図 左)。そこからU F2 B2 DでHTRができました。
F' B' U B // EO (4/4)
L U R L U' L U // 4 corners (7/11)
B L B' L B L2 B' // 8 corners (7/18)
L D2 U2 R // DR (4/22)
D2 L2 U F2 B2 D // HTR (6/28)
6. 完成!
ここからは全面180度回転のみで解くことができます。
お題の続きですが、ブロックを作っていくのが分かりやすいです。
既にコーナーとエッジのペアがいくつかありますが、F2 L2 F2で橙面に2×2のブロックを作ります。
さらにブロックを大きくするために、B2で青黄エッジを揃えてから、L2で2×2×2のブロックができます。
次はU2で赤面にも2×2をつくりR2で先程の2×2×2にくっつけます。あとは簡単ですね。U2 F2 R2で六面が揃いました!ここまで合計38手で終了です。
F' B' U B // EO (4/4)
L U R L U' L U // 4 corners (7/11)
B L B' L B L2 B' // 8 corners (7/18)
L D2 U2 R // DR (4/22)
D2 L2 U F2 B2 D // HTR (6/28)
F2 L2 F2 B2 L2 U2 R2 U2 F2 R2 // Finish (10/38)
追加テクニック
ここまでで揃えることは出来るようになりますが、習得したほうが良い追加のテクニックを紹介します。DRをやるなら最終的にはどれも必須のテクニックになります。すべて
kusanoさんのサイトに解説があります。
スライスインサート
実はHTRから完全に揃えることを狙う必要はなく、最初にDRを作った面(今回はU/D面)だけを完成させ、残ったE層エッジは「スライスインサート」と呼ばれるテクニックにより、大体+2手以内、時には0手で揃えることができます。記事の分量が膨大になってしまうのでやり方はこの記事には載せないことにしましたが、難しいことはしておらず、慣れればむしろE層を気にしなくていいので楽で強いです。
ちなみにスライスインサートを使うと35手になります。
D2 * L2 U * F2 B2 D' ** // HTR
F2 B2 R2 U2 L2 // Slice (33)
* E' , ** E2 // Finish (6-4/35)
エッジ交換手順
HTR後よくエッジが数個だけ残るので、180度回転のみで構成されるエッジの交換手順を覚えると揃えやすくなります。
うえしゅうさんの記事にもまとめられています。これを必須と言ってしまうとタイトル詐欺になってしまうので追加テクニックとしましたが、特に180度回転の手順は覚えにくいような手順ではないので楽に覚えられると思います。
NISS
これはDRに限らずFMCをやるなら基礎中の基礎テクニックで、選択肢を倍増させることができます。DRにおいてはEO後、DR後などのタイミングでNISSすることが多いです。あむす式では4コーナー、8コーナーの後にも行えます。
考察など
手数について
今回は38手、スライスインサートありで35手という記録になりました。初めは1時間以内に終わらなかったり、手数が長くなってしまうと思いますが、慣れればスライスありで平均35手前後は安定できそうかなといったところで、運が良ければ30手を切ることもできます。さらに残りの上述の追加テクニックを使えるようになればより楽だと思います。
コーナーインサート無しのBBには手数は勝っていると思いますし(ノムノムさんがインサートなしでmean sub30されていましたが相当3×3を熟知されていて例外的かと思います)、コーナーインサートありでもブロックから最後のコーナースケルトンを作るところが結構大変なので、全くのFMC初心者がBBではなくあむす式簡易DRから始めるのは結構ありなのではないかなと思います。少なくとも自分はBBではコーナーインサートを習得し、さらにELLを結構頑張って暗記してようやくsub40できたりできなかったりという感じでした。
ただ、FMCに慣れてきて30手以内の手数を求めるなら普通のDRを勉強した方がいいのは確かです。あむす式はあくまで初心者の方が「覚えなければいけないことを極限まで減らしてFMC, DRに触れるための解法」という位置づけで, DRに対するハードルが少しでも下がればいいなと思っています。
あとはBBから始めるデメリットとして、仮に長い時間をかけてBBで上達していき、30手前後くらいで安定できるようになったとすると、「BBでも結構短い手数を出せるようになったし、DRに移行してこれまで練習したことを使えないのはもったいない」と感じてDRに移行するハードルがより高くなってしまうという点が挙げられると思います。あむす式から始めた場合、スライスインサートなどもそのまま使えるので本家DRに移行しやすく、スムーズにsub25レベルまで上達できる可能性が高いと考えます。また、あむす式ではコーナーを揃える部分が手数的にもったいないことが明らかなため、BBと違ってあむす式に慣れても「この解法で30手くらいを出せるようにしばらく頑張ろう」とはならないのも逆に良い点なのではないかと思います。
先日の大会でも、BBを使っている方が大半で、まだまだDRは少数派だなと感じました。DRerが増えれば、より一層皆で切磋琢磨し合って日本のFMCは強くなれると思います。DRは情報戦なので、自分含め英語が苦手な人が多い日本はFMCにおいて逆境にあると言えるかもしれませんが、もっと日本でFMC及びDRが流行れば日本語でのDRの情報も増えるので、上達もしやすくなります。皆で一緒に強くなって世界と戦えるように、あむす式DRの改善点やDRへのハードルを下げる他の解法を今後も考えたいなと思っています。
結語
初心者の方が理解できるように頑張った結果、大変長くなってしまいました。こんなに長い記事を書いたのは初めてなので疲れましたが、楽しかったです。
ここまで読んで下さりありがとうございました!お疲れ様でした!
お題スクランブル R' U' F U R2 L D2 R U' D' F' D R2 F' L2 F2 D2 B R2 D2 B' R2 L2 B R' U' F